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映画「ぶどうのなみだ」             ~”大地の恵み”を人生に重ねて~

映画「しあわせのパン」の三島監督が、その二年後に作った作品「ぶどうのなみだ」。

今回も大泉さんが主役。北海道の大自然を舞台にした、素敵な世界観に見入ってしまう作品です。                                 その他のキャストが、安藤裕子さん、染谷将太さん。きたろうさんや大杉漣さんもでています。

まずは、美しい自然描写と作品全体の綺麗な色遣いに、心を掴まれます。                              メインの登場人物の名前が、青(アオ)と緑(ろく)。衣装も、青、赤、白(緑)であり、そこに大地の緑と茶色、北海道の広く大きな青い空、そして葡萄の赤が美しく表現されています。              

前作品の「しあわせのパン」もそうでしたが、観ていると北海道への憧れが益々強くなります。深く観ることもできますが、あまり難しく考えず、単純に映像美から自然の素晴らしさに浸れる作品でもあります。

一方、掘り下げて観ると登場人物の葛藤が、自然のアイテムと重ねて表現されているところ、私は素晴らしいと思います。監督の“自然”や“食”への感謝・尊敬の念、登場人物の成長、人生の辛さや悲しみも描かれています。

1.“自然”・“食”の有り難さ

三島監督が作る“自然”・“食”の世界は、前作「しあわせのパン」同様、少し現実的ではないくらいにお洒落に、そして美しく表現されていて、見る人を夢の世界にいざなうような華やかさがあります。

そして、単に綺麗なだけではなく、観る人を惹きつけつつ、その裏には監督の「“自然”・“食”の大切さや有り難さ」、「食を囲む人々の繋がりや温かさ」への気付きへと導いてくれます。

大自然の中、そこで穫れた恵みを大切に仲間と楽しく食するシーンがありますが、何よりもの贅沢で豊かなことだと私は思います。このシーンでここに住む一人が「ここにはなんでもある。空も土もなんでもある。」という台詞があります。「都会は便利なものがあり不自由しないが、田舎は不便だ」という概念が現代にはあると思いますが、本当は逆であるということに、はっとした方もいるのではないでしょうか。そうなのです、「都会には、そういった大切なものがなくなっている」ということなのです。本当の豊かな生活・日常・人生とは、何であるかを考えさせられます。

メインの登場人物3人が、素晴らしい夕日に目を奪われ、涙するシーンもやはり印象的です。現代の都会には残念ながらないものです。このようなところが、前作「しあわせのパン」と共通するところで、改めて大切にしたいと思うと同時に、そんな環境への憧れを強く抱かせます。

2.“食の主人公「ワイン」”は「自然の恵み」

映画のストーリーとテーマですが、今回の“食の主人公”は「ワイン」です。

「ワイン」は「自然をダイレクトに表現される特殊な食品」であるということ。前作の「パン」も勿論、原料ぼの小麦や酵母や牛乳など自然のものですが、それらを合わせて人によって作られるのが「パン」であるのに対し、「ワイン」は、自然によって、味や出来が非常に左右される食品です。まさに「自然が作り上げる食品」なのです。

「ワイン」は、大地が育てたぶどうに酵母が働きかけるだけ出来上がる「自然の恵み」がダイレクトに感じられる”自然がそのまま表現されるロマンティックな食品”なのです。
このことは、私もソムリエとしてセミナーをするときに、ワインやブドウ品種などの基礎知識よりも重要視していて、必ず受講者さんに伝えるようにしている点です。 ワインの味を決めるのは、実は「土の力(=自然の力)」がワインの個性の多くを占めます。そういう意味で、今回の映画は、「自然の恵みとしての食」=「土」がカギになっていると思います。

3.人もワインも“積み重ねと熟成”、人生の奥深さと自然を重ねて

登場人物のアオはワインに、エリカはアンモナイト(土)、そしてロク(緑)は小麦と、それぞれの“大地の恵み”に一生懸命です。共通するのは、全員に心の傷があり、苦しんでいること。それぞれの“大地の恵み”に精を尽くして頑張る裏には、自らの心の傷が重なり、なんとかしたいという”もがき”でもあるとも感じました。

ワインもアンモナイトも、長い時間をかけて土によって出来上がったもの。土が源であることは、主人公たちの“ルーツ=親”との関係と重なるという見方もできると思いました。親への思いに苦しみ、四苦八苦するそれぞれの姿が、観ている人にも多かれ少なかれある「愛の問題」と向き合わせてくれる作品かもしれません。

後半に、アオのワイン造りが上手くいかずに苦しんでいるときに、エリカが手紙を送ります。そこには、「ワインを作る土は、たくさんの命の積み重ねであり、それが多いほど美味しいワインが出来上がる」と書かれています。肥沃ではない土壌でも育つのが葡萄ですが、苦しいながらも栄養を求めて土深くまで根をはって一生懸命生きる姿は、人間も葡萄と同じで、苦しいながらもたくさんの経験や時間を重ねて“複雑で美味な味わいがでてくる=幸せになれる”ということでしょう。

幸せになるために、傷を一つ一つ乗り越えていくのは苦しいことです。主人公3人が「自分を許す、他者を許す」、楽ではないけれど、自らと向きあいながら一歩一歩、時間がかかっても進んでいく姿に共感させられます。

ワインも人も様々な要素(経験)を取り込んで、それらが相まって熟成されて素晴らしいものになるということなのでしょう。改めて、ワインと人を重ねて表現されている「ぶどうのなみだ」、本当に人生と自然の厳しさや素晴らしさが、じんわりと伝わってくる作品だと思いました。

4.まとめ

一見、ファンタジックで綺麗なだけの映画と思われてしまいそうですが、「自然の素晴らしさと、自然が作り上げる食や豊かさ」「人の一生もいろいろな経験を経て、糧となり幸せな人生となること」など、とても大切なことを教えてくれる、美しく奥深い作品だと思います。

ワイン片手に、じっくりと登場人物の心情を感じながら、鑑賞することをお勧めします。
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